コスタリカ・世界選手権終了

アドベンチャーレース世界選手権の全行程を終え、サンホセから2時間ほどの田舎町にゴールしました。


昨日、スタート前に泊まっていたホテルに戻ってきたので、今日の夕方フロリダ経由で日本へ戻ります。10日ぶりに暖かいシャワーを浴び、ゆっくりと眠って時間を作ることが出来たので、記憶の新しいうちに日記を書いておこうと思います。


今回のレース、結果から言えばチームで完走することは出来ませんでした。チームの大黒柱の田中さん、パワフルに牽引するヨーキさん、50才にしてフルマラソンで3時間を切り(マラソン年代別1位です)、今回初めてメンバーとなって世界大会へ初出場する雅美さん、そして私の4人が力を合わせて10日間頑張ってきましたが、最後の最後で失敗してしまいました。雅美さんがマウンテンバイクの下りで転倒、頭と顔を強打し、意識不明に近い状態になってしまったからです。


事故の直前、私たちはこのままゴールすれば、日本人として過去最高位を記録できる、というところまで来ていました。レース7日目の夜中に行動を開始し、休む間もなく21時間のカヤック、8時間のトレッキング、そして18時間マウンテンバイクを続け、人間の体力と精神力の限界に近いところでゴールに向けて進んでいました。思い返せば、危険な兆候はありました。私を含めて全メンバーは幻覚、幻聴に悩まされ、特に雅美さんはMTBのセクションで何度か転倒し、意識が朦朧としていたようです。「ヤマキーさん、今私たちは何をしているんでしたっけ? コスタリカに来ているんですか?」といった言動や、私自身も雅美さんに、昔の女性メンバーの「アケさん」と声をかけるなど安全のための余裕はかなり少なくなっていました。


9日目の夜中、4時間ほど彷徨った末最後のチェックポイントをとった後、ヨーキさんと私は先に下っており、雅美さんと田中さんが後から下ってきました。細かいアップダウンが続く箇所で、ある坂を下り終えたところに橋が架かっており、そのまま勢いを付けて次の坂に登れるところがありました。私とヨーキさんはそのまま次の坂の途中で後続を待ち、後ろの様子を振り返ったところで雅美さんが橋の手前で転倒、ヘッドライトを照らしながら一回転するのが見えました。そして駆けよった田中さんから、「ヨーキ、ヤマキー、ちょっと来てくれ! ヘルメットが割れて顔面から出血している」と呼ばれ、行ってみると雅美さんは目を見開いて手を震わせながら、「もう、いやだ」と言っています。一目で危険な状況であることが分かったので、すぐにGPSで大会側にSOSを出し、携帯のシールを剥がして助けを呼ぶことにしました。ただ、電波の状況が悪いため田中さん、ヨーキさんが雅美さんにつきそい、私が一番近くの民家を探して救急車を呼んでもらうことにしました。


真夜中の1時半、半径数キロに誰も住んでいないような場所です。MTBを飛ばして地図を読みながら、ひたすら先を目指しました。眠気も疲労もふっとんでいましたが、なかなか民家らしきものは現れません。そして現れたとしても、私はスペイン語が全くわかりません。3kmほど漕いだところで、やっと洗濯物を干した民家が現れました。迷惑を承知で、ドアをたたきます。中から目を覚ましたような子供の声が聞こえますが、何を言ってるのかよく分かりません。ドアをたたき続けても、開けてもらうことは出来ず、ヤモリが壁に張り付いているのを見ながら、途方に暮れていました。後から聞いてみると、その地域はかなり治安が悪く、夜中に強盗もでるようなところだったということです。そこでちょうど車のライトが見え、必死で道路に立ちはだかって車を止めると、「やあ山北さん、調子はどうですか?」と、レースを追っていたNHKの取材班がカメラを回しながら降りてきました。不幸中の幸い、とはこのことでしょう。すぐ事情を話して救助を呼び、現場に戻って救急車を待ちました。


頭を強打しているため雅美さんを動かすことも出来ず、寝たきりで目を閉じ、エマージェンシーブランケットと防寒具で身体を包んでいました。雅美さんは今回、紅一点の女性メンバーとして頑張り続けていましたが、最後に一線を越えてしまいました。言葉もしゃべれない状態だったので手に文字を書くことで意思の疎通を図り、ほどなく到着した救急隊に彼女を託しました。


さて、残るはマウンテンバイク7km、そしてキャノピー(ターザンのようなアクティビティ)、ラフティングでゴールです。しかし、大事故を起こして失格が決まった直後にレースを続けるのは難しく、私自身はかなりモチベーションが下がっていました。できればMTBにも乗らず、このままゴールへ移動して着替えを済ませ、休みたいと思っていました。目の前の事故で倒れたチームメイトを病院に送って、どうしてレースを続けることが出来るのでしょう。ちょうど雨も降ってきて冷たいし、気がつけばお腹もすいて体中が痛いです。


ただ、雅美さんの意識が復活したときに、「私のせいでチームはリタイヤを決めたんだ」と後悔に苛まれるのか、「あの後も残ったメンバーは頑張って完走したのか」とどちらがいいかと考えれば、まだ残ったメンバーでレースを続けた方がマシでしょう。幸い、主催者もそれを認めてくれたので残った男性メンバー三人でレースを継続し、翌朝、ゴールしました。