ボラティリティの描写③
最近のエントリーで少しだけ金融の話に触れましたが、「分かりにくい」という指摘をもらったので、実例を使って前回の例で上げたカレンダースプレッドがどうなったか見てみることにします。
(1)1/23満期の売る権利を売る(ストライク(権利行使価格)は290ドルに設定)
(2)1/30満期の売る権利を買う(このときストライクは(1)の5ドル下)
ここで差し引きの損益はほぼゼロでしたが、当初予定していた最終日、つまり今日の想定損益は下記の通りでした。
グラフが途切れていますが、やはり満期までに株価が暴落するとかなりの損失が発生します。一方、株価が上昇した場合も利益が限定されてあまり嬉しくありません。1/23の時点で(1)の権利行使価格が近づきながらヒットせず、かつ(2)で買っていた価値が損なわれないまま売却するパターンの利益が一番大きいことが分かります。試してみた結果から言うと、ポジションを組んでじりじりと株価が上昇し、違和感を感じた段階で(2)で保有していた売る権利を売ってしまいました。ここで残るは(1)の売る権利のみになりますが、その後好決算を受けて株価は400ドルを超え、290ドルで売る権利は0になり、売る権利を売っていたプレミアム分(結果的には1枚あたり350ドル程)が利益として残りました。保険としてかけていた(2)を途中で外した訳ですが、広い範囲で利益になることが伝わったでしょうか? グラフを見れば一発で分かることも、言葉にするのは意外と難しいですね。
この仕組みを理解するために、誰がどんな理由で損失を引き受けているのか考えてみました。取引が成立するためには、当たり前ですが反対側には逆の判断をした人がいたはずです。
一つ考えられるのは、同じようなスプレッド戦略を、別のストライクで設定しようとした人がいたこと。ポジションを組む、外す段階で一致する部分があったのだと思います。
二つ目は機関投資家等でどうしてもそのポジションをとらざるを得なかった、ある価格以下になった場合の損失をヘッジしておきたい、等。
このように、デリバティブの仕組みを理解して実戦すると、あり得ない事象が起きたときに莫大な収益が生まれるようなポジションも組むことが可能となります。ファンドを運営し、大学で教鞭をとるナシーム・ニコラス・タレブの著作を四年程前に読んで非常に面白かったのですが、この人等はブラックスワン(ごく稀であるが、大きな影響を及ぼす事象)に備えて基本的にガンマ・ロング(権利を買う取引を中心に据える)タイプのポジションを組んでいるのだと思います。
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もちろん、市場では世界中の才能あふれる投資家が虎視眈々と収益機会を伺っているので、チャンスはそこまで多くありませんし、優秀な人でも失敗することは多くあります。ただ、こういった考えを繰り返すことで面白いと思うのは、日常の生活においてはノーリスクのオプションが沢山あるということです。
例えば得意な競技のトレーニングをする、挨拶やメールを即返す、英語や数学など興味のある分野の勉強をする、などは意識すれば出来ることでリスクはありませんが、そこから得るチャンスや経験に上限はありません。私はまだまだ実戦できてはいませんが、このことに気づいたとき、「やった」と思いました。